第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
「冷やしても治りが遅かったら、これ使いな」
「くノ一直伝の、お薬だよ~」
「腫れや化膿を抑える効果がありますから」
「わあ、助かりますっ」
陽光が降り注ぐ地で、番傘を広げた蛍に宇髄の奥方達が助言を授ける。
度々蛍の口から彼女達の話は聞いていたが、仲が良いのは本当だったのだな。
「何もお返しできなくて…今回のことは、すみませんでした」
「気にしてないよ。天元様も、本気で煉獄様を相手にした訳じゃないだろうし」
「お二人の戯れは、よくお見掛けしていますから」
「こっちこそごめんねぇ」
「…煉獄よ…俺ら問題児みたく扱われてねぇか?」
「うむ! 問題を起こしたのは事実だからな!」
互いに頭を下げ合う蛍と奥方達を見ていると、なんとも身の置き場に困りはするが。
悪いのは俺達だ、仕方なかろう!
「それでは」
「また遊びに来てね、蛍ちゃん! 今度は煉獄様も連れて!」
「いつでも待ってるよ」
「はい」
にこやかな笑顔を交わして、宇髄家と別れる。
宇髄の前だと冷たい態度も多い蛍だが、奥方達の前だとこうも変わるのか。
宇髄が愚痴を零したくなるのも、わかる気がした。
「行こう、杏寿郎」
「うむ! 救急箱は俺が持とう」
「うん。ありがとう」
頸から下は一部の隙間もなく肌を隠しているが、顔だけは無防備な蛍だ。
なるべく邪魔なものはないようにと救急箱を取り上げれば、またも手を握られた。
陽光は、鬼である蛍には正に灼熱の炎そのもの。
その下を傘と俺の手で両手を塞ぎ歩くのは、些か危険ではないか?
「蛍。俺は一人でも歩けるから大丈夫だ。それより万一のことを考えて、君は」
「心配したの」
「む?」
「要に、杏寿郎が竹林を吹き飛ばすくらいの大喧嘩を柱としたって聞いたから。見れば、あちこち青痣だらけだし」
離そうとした手は、離れなかった。
蛍の手が、離すまいと握り返してきたから。