第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
「杏寿郎っ柱と喧嘩し…っ青い!」
「うむ! 喧嘩ではなく鍛錬だな! 勝敗はつかなかった、引き分けだ! 宇髄も不死川も流石柱だ腕が立つ!」
駆け寄ってきたかと思えば、俺の顔を見るなり蛍の方が顔を青くする。
今はまだ昼間。
紫外線を防ぐその袴なら体を焼かれる心配はないだろうが、今日は快晴だ。
そんな中走って来れば、息切れもするだろう。
「それより太陽の下を走ってきたのか? 無理はよくない! 万一転倒でもしてしまえば蛍の体が」
「そんなことより杏寿郎でしょ!!」
「む…っ?」
「こんなに痣作って! 何この手当て、ちゃんとできてないッ」
捲し立てる蛍の気迫に、つい気圧される。
初めて蛍の檻の中で叱咤された時のようだ。
「顔にまで作って…跡が残ったらどうするのっ」
「これくらい、男が顔の怪我など気にし」
「私が気にするの! 嫌だよ、筋肉忍者とおっかな柱に杏寿郎が傷物にされるなんてッ」
「おい猫娘。その言い方止めろサブイボが立つ」
眉をつり上げて声を上げる蛍は、やはりあの時の蛍と同じだった。
自分の体を大事にしろと、声を荒立ててきた時と。
「胡蝶、医療品少し借りてもいい? うちのじゃ足りないから」
「ええ、どうぞ。煉獄さん一人では手を抜きそうですから。彩千代さんが面倒見てあげて下さい」
「ありがとう」
胡蝶とは未だ溝があるようなことを口にしていた蛍だったが、さくさくと二人で会話を進めると救急箱を片手に、もう片手を…む?
「はい。帰るよ」
差し出された手に視線を落とす。
まるで子を急かす母のような姿に動けずにいたら、先に手を取られた。
「色々迷惑をかけました。消し飛ばした竹林の片付けがあれば、後で行くので」
「それならもう隠の皆さんが終えているので、大丈夫です」
「そうなんだ…じゃあ後で後藤さん達に差し入れ行かなきゃ…」
「む…蛍、」
「ほら。杏寿郎も胡蝶にお礼言って」
「う、む。世話になったな!」
「いえいえ。もう喧嘩は無しですよ? 気を付けて帰って下さいね」
笑顔の胡蝶に見送られて、蝶屋敷を後にする。
その間も蛍の手は離れず、ずっと俺の手を引いていた。