第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
「鬼のことなら鬼殺隊全員に関わることだろォが」
額の青筋を増やした不死川が、明らかな負の感情を向けてくる。
「そうだな! しかしそれよりも君は見るべき相手がいるだろう!」
「なん」
「弟のことは兄が守って然るべきだぞ!」
悲鳴嶼殿の継子である不死川少年…いや、玄弥少年。
前々から不死川の弟であると予想はしていたが、蛍の心配する様を見て確信した。
何かと玄弥少年に構っている蛍が、中々二人の距離が縮まらないと零していたのを聞いたこともある。
等しく弟を持つ兄として、見過ごせないことだ!
「俺に弟はいねェ」
「笑止! 他人の俺でもわかるぞ、玄弥少年は君が守らねばならない存在だ!」
どうやら不死川兄弟には家族が二人しかいないらしい。
だからこそ助け合って生きていかねばならぬと言うのに。
兄にまで拒否されてしまえば、一人残された弟はどうする。
その身に感じる絶望は想像もしたくない。
「兄が先に生まれてくる理由はなんだ? 弟妹を、家族を、弱き者を守る為だ。そうだろう宇髄!」
「なんでそこで俺に振るよ」
「君も弟がいたと聞いた!」
「あー、まぁ…くっそ可愛くねぇ弟な」
「弟は可愛いものだ!」
「可愛くねぇよ」
「可愛いぞ!」
「可愛くねぇ」
昔に、ちらりと宇髄の口から聞いた過去の話。
元忍であった頃、弟妹は合わせて九人いたらしい。
それも忍という厳しい世界で命を落とし、最後に残ったのは二つ歳の離れた弟のみだとか。
「ふむ。君と弟は幾分仲が良くないのか!」
「仲っつーか生き方から反りに合わねぇな。だから俺はどっちかっつーと不死川側だ。他人にゃわかんねぇ兄弟の溝ってもんはあるぞ」
「勝手にこっち側に寄ってくんな。生き方が反りに合わなくたって、弟は弟だろォが」
「おま…人が加勢してやってんのになんだその言い草」
「加勢なんているか。好き勝手言ってんじゃねェよ」
「…ふむ!」
やはり玄弥少年は不死川の弟であったか。
宇髄に反抗する不死川の目には、兄である覚悟が見えた。
宇髄にしろ不死川にしろ、型は違えど等しく弟を持った身。
ならばその心は俺にも大なり小なり理解できる。