第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
気付けば再び宇髄と組手の体制に成り代わっていた。
互いの得物を手に圧を飛ばせば、陣風のような風が突如として間を強く吹き抜ける。
「何やってんだお前らァ」
宇髄と共に、目線で追った先。
半分程斬り捨てられ視野の広くなった竹林の中に、その者はいた。
我らと等しく圧を飛ばし歩いて来るのは、風柱の男。
先程の陣風はあの不死川からだろう。
「隊員同士の抜刀は御法度だろうがァ」
「隊律違反じゃねぇよ。これは鍛錬だ、鍛錬」
「うむ! 宇髄とは稽古を付けていただけだ!」
個人的な感情も混ざり合ってはいたが、先程まで稽古をしていたのは事実だ。
「じゃあなんだこの林の有り様は。ただの稽古でここまで見境なくなるのかァ? 柱ともあろう者が」
「…それお前が言う?」
「右に同じく!」
「事実を言っただけだろうがァ事実を!」
「はぁ…仕方ねぇだろ。煉獄が発破かけてきやがるから」
「それは宇髄だろう! 俺は俺の継子を辱められたことが我慢ならなかっただけだ!」
「継子じゃなくて嫁だろ嫁」
「はっはっは! だから君は言葉が過ぎると!!」
「嫁ェ?」
宇髄の言い草に反応したのは俺だけではなかった。
厳しい目をしていた不死川の血走った瞳が、俺へと向く。
「柚霧のことか」
〝柚霧〟
その名で蛍を呼んでいるのは、不死川ただ一人だ。
その理由を明確に蛍に問い質したことはない。
否、問い質せなかったと言えるかもしれない。
明らかに蛍の影沼の中で、不死川と何かしらの接触があったはずだ。
蛍を助けてくれた不死川には感謝している。
しかしその接触の詳細を、知りたいとは思わなかった。
「君には関係ないことだ!」
「…は?」
気付けばそんな言葉を吐き出していた。
俺は蛍の話をしていた。柚霧の話ではない。
我ながら幼稚だとも思うが、胸の中に宿る微かな蟠(わだかま)りが邪魔をする。