第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
偶に癪に障ることもあるが、今は幻となる忍の剣技を継ぎし者。
そういう意味で尊敬はしているし、些か多過ぎるが三人の奥方を持つ男だ。
俺より女性との関係に長けているのは理解している。
だから問いかけたのか。
「以前、君は言ったな。蛍は生娘ではないと」
「ああ、そういやそんなこと言ったか」
「では問う。君は生娘を抱いたことがあるのか」
俺からそんな問いがくるとは思っていなかったのだろう。
水浴びで薄れた化粧の下の切れ目が、丸く変化した。
「そりゃあ…まぁ。抱いたことくらいは。何、あいつ生娘だったの?」
「わからん。俺は君のような経験はないからな」
ただ一つ告げるとするならば。
「抱かれることに恐怖を抱くのは、生娘であるからか。それが知りたかっただけだ」
「そりゃあ人によると思うが…怖がってたのか?」
「…勘違いでなければ」
声を静めて問う宇髄に、自然と己の声も弱くなる。
確証はない。確信もない。
しかし確かに、あの時俺を見る蛍には恐怖の色が宿っていた。
それが生娘であることと繋がるのであれば、寧ろそうであって欲しいと願う。
ただ単に、未知なる経験に怖さを感じただけであって欲しいと。
しかしあの瞳の中の恐怖は、そんな生易しいものではなかった。
一体、蛍には俺がどのように映って──
「抱く時に怖がらせたのか? だっせぇ」
……。
「今なんと言った?」
「好いた女を怖がらせたのかよって。だせぇな」
よもやそれは聞き捨てならないな…!
「ならば君が俺であれば怖がらせなかったと? 無理だな!」
「はぁ? 俺なら派手に蛍を気持ちよくさせられるぜ。お前みたいな芋男じゃねぇからな」
「蛍で不埒な想像をしないでもらいたい! 芋は食べるものだ! 人に例えるものではない!」
「この話の流れならするだろ、芋信者が。そういうところが芋男だって言ってんだよ」
「ははは! 聞き捨てならんな撤回しろ!」
「派手に反対するわ。お前のその髪色も、芋の食い過ぎじゃねぇの?」
「ならば君のその髪は河豚の食べ過ぎだな! 軟弱そうな色だ!」
「はァ!? ンだともっぺん言ってみろ!」
「軟弱そうな色だ!!」
「きっちり反復すんじゃねぇよ!!」