第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
舌で濡らすように耳の中に声と熱を吹き込む。
やがては蛍の体の震えが、熱を覚えるそれへと変わった。
「っは…きょ、じゅ」
舌足らずに俺を呼ぶ。
その一声だけで下半身の熱が昂る。
先程、俺は蛍を喰らわないと言ったばかりなのに。
それだけは犯してはならないと自分自身にも言い聞かせた。
──集中だ。
「安易に宣言すべきことではないな…」
人知れず漏れた溜息。
一通り鍛錬を終え、陽の下で上半身だけ脱いだ状態で汗を水で流す。
いつも以上に何度も頭から水を被ってしまったのは今朝の熱を抑える為か。
蛍の感じる様は十分堪能できたが如何せん俺自身の熱は解放できなかった。
中々にこれは試練だと思う。
「よう、色男。人目も憚(はばか)らず水浴びたぁ潔いな」
「…宇髄か」
汲み終えた井戸の桶を戻していると聞き慣れた声が飛んできた。
足音もなく現れるのは彼の癖だ。
声を聞かずとも気配でわかる。
「なんの用だ?」
「用も何も此処はお前の屋敷じゃねぇだろ? そんな素っ気ない目すんなよ」
確かに此処は俺の屋敷内ではない。
最近は昼間活動していることが多くなった蛍となんとなく顔を合わせ難く、人気のない竹林を鍛錬場として選んだ。
顔を合わせ難いと言うよりも、この熱を完全に鎮火させてから会わねばと思ったからだ。
「そんな目など向けていない。だが心当たりがあるなら己の胸に訊いてみたらどう」
「で、蛍とはどーよ最近」
「…そういうところだと言っているんだが」
俺と蛍の関係を知ってからと言うもの、事あるごとに頸を突っ込んでくる。
最初は突っ撥ねていたが最近は否定するのも疲れてきた。
祭りの神と豪語するだけあるな…話題好きなのは本当らしい。
「特に話すことはない。用が済んだら君こそ奥方達の所へ帰れ」
竹林の中にある休憩所で、持ち寄った手拭いで手早く頭を拭く。
「用が済んだら勿論帰るわ。用が済んだら、な」
「っ?」
軽やかな足取りで目の前まで迫ると、急に顔に何かを押し付けられた。
柔らかい感触のそれは同じく手拭いだった。
「俺も一汗掻きに来たんだよ。つき合え」