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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔



 鬼殺隊は夜が本場だけど、本部のお屋敷にいる時はその人と変わらない日常も過ごすから。
 勿論、みっちり体を扱く鍛錬や出歩くお使いでは夜になることも多いけど。
 それ以外では昼間活動することも多い。

 だから今日も杏寿郎に預けられた代筆の仕事を昼間はこなしていた。
 …それを伊黒先生にも見透かされたから、人の真似事をするなと怒られたのかもしれない。


「わかった。じゃあいつもの部屋で仕事してるね」

「うむ!」


 昼間この屋敷の中にいる時は、料理や掃除以外ではなるべく日光から一番遠い部屋にこもっている。
 其処にいることを告げて、頭を下げた。

 代筆を一段落させたら、夕飯の仕込みに取り掛かろうかな…そういえば、今度蜜璃ちゃんに新しいお芋のお菓子の作り方教えて貰う予定だったし。
 その時に伊黒先生のことも色々訊いてみようかな。
 そしたら少しは突破口も見つかるかもしれない。


「うん、」


 自分自身に言い聞かせるように頷く。
 俯いていた顔を上げて、先を歩き出した。

 兎にも角にも凹んでなんかいられない。
 自分の道は、自分で拓いていかないと。
































「……」


 陽の差す道とは違う。
 暗い陰りのある廊下の奥へと向かう、蛍の背中を見送る。

 偶々耳にした、蛍と小芭内の玄関先での会話。
 冷たく突き放す小芭内に、蛍は反論一つしなかった。
 それでも俺の気配も探れない程に、何も感じていないはずもないだろうに。
 声をかければ、蛍はその事実を自分の中に抱え込んだ。


「やはり自分の足で進むんだな。君は」


 知っていたはずだ。
 鬼であることも、目を逸らさずに向き合ってきた蛍なのだから。
 その強さに俺も惹かれたはずだ。

 なのに今は俺を頼らず進もうとするその背中に、少しだけ寂しさを覚える。
 俺が人であり蛍が鬼である限り、切っても切れない問題だ。
 共に歩むと決めたからこそ、共にその問題も抱えていたいというのに。


「…どうしたものかな」


 中々、望むようにはいかないものだ。

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