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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔



 同情は嫌い。そんな目で見られるのも嫌い。
 人の時は、そういう目を全て突っ撥ねて生きてきた。

 私の何も知らない癖にって。

 でも悲鳴嶼さんは違った。
 炭治郎も私のことを真っ直ぐに視て、その上で理解しようとしてくれている。
 上辺の取り繕いでも優しさでもない。

 そんな人もいるんだと知ったのは、鬼になってから。

 でも人の時よりも、鬼である今だからこそわかる。
 そうして鬼の中の〝私〟を視てくれることが、どんなに凄いことなのか。


「…やっぱり炭治郎は優しいよ」


 握られていた片手を退いて、上から炭治郎の手を包む。

 ──温かい。
 その心と同じに、ほっと心が和らぐような温かさ。


「ありがとう」


 返せたのは、そんなありきたりなお礼だけ。
 それでもそんなふうに言って貰えたのは、初めてだったから。
 精一杯の感謝を込めて告げれば、幼さを残す大きな瞳が照れたように逸らされた。


「う、うん…思ったことを言っただけだから…」

「だから嬉しかったの。…ね、炭治郎。今まで定期的に禰豆子に会いに来てたけど、これからは炭治郎にも会いに来ていいかな」

「えっ」

「珠世さんのことも色々訊きたいし」

「あ、そっか。そう、だよな。うん、そうだ!」


 言い聞かせるみたいに何度も頷く炭治郎の手が、わたわたと離れる。
 あ、もうちょっと触れていたかったのに…残念。

 あんなに真っ直ぐな目で見てきていたのに、照れ臭そうに慌てる炭治郎がなんだか可愛くて。
 年相応の少年の姿に、口元は自然と笑っていた。


「勿論、炭治郎に会いたいのが一番だけどね」

「!」


 本音だから素直に口にすれば、禰豆子を前にした善逸みたいに、ぽんっと炭治郎の顔が赤くなった。
 わぁ、可愛いな。

 杏寿郎のことを偶に可愛いと思うことはあるけど、それとは全く違う感情だ。
 私にもし弟がいたら、こんな気持ちだったのかな。
 禰豆子と一緒で、傍にいるだけでほわほわして癒される。

 竈門家の血筋、凄い。

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