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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔



「それに、俺も嬉しいから」


 不意に炭治郎の目が優しくなる。
 普段から優しい目をしているけれど、いつも以上に。慈しむ、かのような。


「蛍の力になれるなら、俺の方こそ協力したい。何かしたいって思うから」


 杏寿郎のような力強く惹き付け連れ出す言葉や、義勇さんの静かに揺るがない思いとは違う、炭治郎の真っ直ぐさ。
 それはとても優しい色をしていて、真綿で包み込まれるような感覚だ。

 痛みはない。
 哀しみもない。


「…炭治郎は優しいね」


 いつかに告げた言葉を口にすれば、優しい色を灯したまま炭治郎は頸を横に振った。


「俺じゃない。蛍が優しいんだ」


 うーん、それはないかな。
 絶対に炭治郎の方が優しいと思う。

 その思いも匂いで見透かされていたのか。
 私の両手を握る手に視線を落とすと、炭治郎はぽつりぽつりと話し出した。


「今まで見てきた鬼は皆、人であることを忘れて人を喰らう鬼だった。だからこそ悲しい生き物だと思っていた。人でありながら人であったことを忘れてしまった、悲しい、虚しい生き物なんだと」

「……」

「蛍に出会うまで」

「…私に?」


 炭治郎の言葉には曇りがない。
 少年の心の内に持つ優しさが真っ直ぐで、だからこそ同情の言葉にも何も返せなかった。
 同情されるのは、嫌いなはずだったのに。


「蛍も珠世さんと同じ。大きな悲しみを背負った匂いがする。だけどそこから目を逸らしていない。背負ったものを一生抱える覚悟で、立っている。そこに…悲しみや虚しさを向けるのは、違うと思ったんだ」

「……」

「体は鬼だけど、心は人のまま。前も後ろも見据えて立っている蛍だから、優しいんだ」


 泣きたくなる程優しい心を持った少年が、私のことを優しいと言う。
 なんだか感情が上手く言葉にならなくて止まる。


「そんなに周りに優しい心を持っているのに、蛍自身に向ける自分が、優しくないから」


 私自身が、私に優しくない?


「自身を叩き上げることで、立っているように見える。だからそんな蛍の支えになれるなら、なんだってしたい。俺も力になりたいって思うんだ」


 初めて向けられた言葉だった。

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