第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
勿論、以前と変わらない柱もいる。
義勇さんや悲鳴嶼さん、胡蝶なんかがそうだ。
相手は柱だから、もしかしたら私と杏寿郎とのことには気付いているかもしれないけど…特に突っ込まれたことはない。
その方が助かるけど…あ、でも。
一つ、私の方から踏み込んだ人がいる。
「え? 珠世さんに?」
「…駄目、かな」
それは柱じゃなく、鬼殺隊の新人剣士の一人。
竈門炭治郎。
那田蜘蛛山の任務で負った傷もほとんど完治させた炭治郎は、未だ蝶屋敷で特訓中。
後は完治を目指すのは善逸のみとなっていた。
立ち寄った蝶屋敷で禰豆子と戯れつつ、炭治郎と二人きりになれる時を見計らって話を持ちかけた。
内容は、炭治郎が密かに出会って契約を交わした、鬼の珠世さんのこと。
彼女に私のことを伝えて欲しいと頼んだ。
理由はただ一つ。
「私も…人間に戻りたい。その為の協力なら、なんでもするから」
諦めていた、人に戻る為の道。
鬼の血を調べることで、人間へと戻る手掛かりを探しているという珠世さん。
普通の人間より遥かに長い時を生きているであろう、鬼であり医者でもある珠世さんなら、いつかそこへ辿り着くかもしれない。
以前は諦めていた。
今更人に戻ったって、同じ人を殺した過ちは消せない。
姉さんを喰った事実も覆せない。
私は禰豆子とは違うから。
人に戻る気すらなかった。
でも戻りたい理由ができた。
人として同じように、また太陽の下を歩きたいと望んだ。
太陽の下で、その手を繋いで歩いていたい人ができたから。
「勿論!」
理由は深くは訊かれなかった。
鼻の利く炭治郎には、それだけで十分だったのかもしれない。
急に両手を握り締められたかと思うと、前のめりな勢いで頷かれたから。
「蛍が望むなら、俺もでき得る限り協力する! いや、協力したい! 蛍なら珠世さんと仲良くなれると思う!」
「そ、そうかな」
「ああ! それに蛍のことなら以前、血を貰った時に珠世さんに文を出して伝えておいたんだ。蛍も特殊な鬼なんだろうって、興味を持ってくれてたよ」
「そうなの?」
知らなかった。
でもそうだよね。
血を提供したんだから、私のことを知っていて当然だよね。