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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔



 唇をなぞる指。
 睫毛が触れ合いそうな程、端正な顔が間近に迫る。
 吐息が私の頬を掠めて、聞き慣れない天元の声が耳元に響いた。


「なぁ、」


 甘ったるい声。
 そわりと背中が騒ぐ。

 これは、いけない。
 騒ぐ気配が震えに変わる──その前に。


「っ誰が誘うかぁぁああ!!!」

「っ!?」


 がしりと隊服の襟首を掴んで、腹に足裏を付いて、巴投げに後ろへと放った。
 巨体がふわりと宙を舞って、休憩所の天井にどかんとぶつかる。
 おお、思いの外飛んだな。


「ってぇなこの…ッどっちが筋肉馬鹿だ…!」


 頭を天井に強打した天元が、着地は不安なく両足を畳の上に着く。


「そっちでしょ。私そんな筋肉盛男じゃないし。ついでに盛りもついてないし」


 天元に明け渡す熱なんてこれっぽっちもないから。
 欲情するなら三人の美人奥さんにして下さい。


「…お前、俺が怖くないのかよ」

「は? 怖くないけど」

「ふぅん?」


 頭を強打したものの、そこまで痛みはなかったらしい。
 あの額当ては伊達に飾りじゃないってことかな。

 それより変なことを問い掛けてくる天元に、体を起こして眉を潜めながら向き合う。
 するとその目がまじまじと興味深く私を観察したかと思えば、溜息をついた。


「ま、結果はわかってたけどな。つまんね」

「じゃあやるなし…」


 本当、面倒臭いなこの忍者は。


「馬ァ鹿。わかってたって違う答えに辿り着くこともあんだろ。お前が煉獄を見る目が変わったように」

「……」

「だから人生ってのは面白いんだよ」


 なんだかよくわからないけど、一人で結論を出して一人で満足したみたいだ。
 大股で歩み寄ってくる天元に、今度は構えなかった。
 そこには、さっき感じた緊張感も艶やかな笑みもなかったからだ。


「その感覚、忘れるなよ」


 いつもの飄々とした顔で笑う天元だけが、其処にいた。

 その感覚って何。
 始終わからないことばかり言ってくる天元だけど、それ以上問いかけはしなかった。


「鬼をからかって遊ぶの止めてくれないかな本当…」

「からかいじゃねぇよ。愛だ愛。蛍が誘ってきたら、本気で抱いたぜ俺は」

「やめてキモチワルイ」

「あんだと」


 想像する前にサブイボが立つ。
 やっぱり歩く十八禁だ。

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