第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
「あるだろ。お前は鬼で、俺は鬼殺隊。鬼の体の仕組みを知ることは、敵を知ることと道理。異論あるか?」
だけど変わらず飄々とした表情で反論してきた天元の意見は、確かに一理あるものだった。
人体に詳しい胡蝶だったら、もしかしたら天元と同じように考えるかもしれない。
「いいか。お前が煉獄としてることは単なる恋愛ごっこじゃねぇんだ。人であるあいつと鬼であるお前が体を交えるってことは、それだけ周りの特異の目も向く。それくらい覚悟してろ」
とん、と天元の指先が私の胸の上を押す。
本来なら変なところを触るなと払ってるはずのその手を、すぐさま払えなかった。
私が異端を見る目を向けられるのは構わない。
鬼である時点で、そんなもの日常的に向けられてきた。
でも杏寿郎は、この鬼殺隊では皆の尊敬の目を向けられる柱だ。
その目を私の所為で変えてしまっていいものじゃない。
…変えたく、ない。
「どうした、これくらいでビビッてんじゃ」
「…誘ったのは私」
「あ?」
「杏寿郎を誘ったのは、私。杏寿郎はそれを受け入れてくれただけ」
気遣って踏み込まずに去ろうとした杏寿郎を、引き止めたのは私だ。
だから誘ったのは私で間違いない。
「だから杏寿郎に非はない。もし鬼と体を重ねることが禁忌だって言うなら、私を煮るなり焼くなりすればいい。でもその目をあの人に向けたら私も黙ってないから」
懇願なんてしない。
縋(すが)ったりなんてするもんか。
杏寿郎が私を守りたいと言ってくれたように、私だってあの人を守りたい。
その為ならこの鬼の体を利用することも容易い。
「覚悟ならできてる」
そんなもの、杏寿郎との未来を口にした時点でとっくにできてる。
あの人の手を握ったのも、あの人の名前を呼んだのも、あの人の温もりを欲したのも、並大抵の思いじゃない。
何度も立ち止まって俯いて葛藤した末だ。
それを今更天元の言葉になんか振り回されてやるもんか。
異端だ特異だと捲し立てるなら、好きなだけ捲し立てればいい。
鬼である私が人の心を望んだ時点で、既に異端なんだから。
「文句が言いたいなら、全部私にぶつけなさいよ」
今更なこと全部真正面から睨み付けて、脆弱(ぜいじゃく)なんか跳ね返してやる。