第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
ああもう、それは狡い。
そんな仕草でそんな問われ方をされたら、拒めない。
「…わかってやってる?」
「うん?」
「その訊き方…狡いよ」
せめてもの抵抗で小さな声で文句を告げれば、優しい色を灯していたはずの瞳の奥に、揺らめく炎が──
「君もわかってやっているのか?」
あ。
声に低さが、加わった。
「そんな顔でそんなことを言われては、更に歯止めが利かなくなるというのに」
そ、そうなの?
どんな顔かなんて意識してないから全然わからないけど、今の問い方駄目だったの?
確認を取る暇もなく、告げる杏寿郎の顔は既に雄の顔をしていた。
優しく触れていただけの掌が、意図的な仕草で体を弄(まさぐ)る。
崩されていく寝巻に肌が空気に晒される。
このままだと本当に喰われる。
予感に体がふるりと震えたのは不安か、歓喜か。
わからなかったけど、止めるつもりがないことだけは確かだった。
「安心するといい」
「…え?」
ちりちりと燃えるような瞳はまだしていたけれど、不意に杏寿郎はにこりといつもの顔で笑った。
「俺は君の感じる様が見たいだけだ。最後まで喰らうつもりはない」
「…………へ?」
どういう、こと?
「それってどういう…ぁっ」
「言葉のままだ」
「だからそれがどういう…ん、ちょっ杏寿…ッ」
「集中だ、蛍。俺の触れるところに集中」
「あッそこ、は…っ」
だからどういうこと!?
「──うまい! やはり蛍の作る味噌汁は一段とうまいな!!」
「…それはよかった」
結局あの後、散々杏寿郎に体の隅々まで責められ続けた。
でも言葉通り、本当に私を果てさせただけで杏寿郎は自分の欲をぶつけてはこなかった。
本当に言葉通りだった…というかあそこまであられもない姿を見せたのに、抱かれないなんて。
ほっとしたというか、女として複雑というか…。
「おかわり!!」
「あ、はい」
空のお味噌汁のお椀を差し出してくる杏寿郎から、お玉片手に受け取る。
まだほんの少し体に熱が残っている気がして、杏寿郎を直視できずにいながら。
なんでそんな健全な笑顔でもりもりご飯食べられるかな…本当、昼と夜の差があり過ぎる。