第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
「…杏寿郎?」
見上げた先には私を布団へ倒した者の顔。…え?
なんで私、押し倒されてるの?
「だが今一番食べたいものは目の前にある」
「……え。」
そ、それって。
というかそんな台詞が杏寿郎の口から出てくるなんて。
想像もつかな…くはないかな!
色気ある時凄いもんね!
「ま、待って杏寿郎っもう朝で」
「まだ早朝だ。時間ならある」
そうだけど。
いつも朝練するから起きるの早いもんね。
でもちょっと待って。
「いきなり何…っ」
「いきなりと思うか? 昨夜はこうして触れさせてくれなかっただろう」
無骨な掌が、緩く肌蹴た襟の間から滑り込む。
鎖骨から首筋まで撫でられて肌がそわりと騒ぐ。
確かに昨夜は体を重ねていない。
一緒に寝ただけだ。
でもそれは遅くまで共に鍛錬をしていたからで…就寝が遅くなってしまった杏寿郎を気遣ってのものだ。
鬼である私は睡眠を取らなくても大丈夫。
睡眠を糧としている禰豆子とは、そこが違うところだけど。
そして人である杏寿郎も違う。
ちゃんと寝て体を休めなきゃ。
「だ、駄目だよ。ただでさえ最近鍛錬続きで睡眠不足なのに…」
「言っておくが、蛍の師となる前から徹夜続きで任務をこなすこともあったぞ? 柱の体力を甘く見ないことだ」
「甘くなんか、心配して…っん」
髪束に口付けられた時とは違う、熱くも感じる唇。
それを胸元の柔いところに感じて、思わず体が反応した。
肌蹴た寝巻の隙間から胸元に顔を埋めている杏寿郎の、柔らかい髪に手が伸びる。
くしゃりとその髪に指先を埋めて、引き離すかどうか躊躇した。
杏寿郎と体を重ねることは嫌じゃない。
まだ構えてしまうところはあるけれど、寧ろ嬉しいと思う。
好きな人と体を繋げることが、こんなにも幸せなことだったなんて。
その幸福を共に感じながら私に教えてくれたのは、杏寿郎自身だ。
でも今は起床時間で、杏寿郎も睡眠は足りてない。
そんな状況でしてもいいの?
体を重ねる時間があるなら、杏寿郎をもう少し寝かせた方が…
「嫌なら止めよう。だが嫌じゃないなら、拒まないで欲しい」
手首に触れる手。
そのまま杏寿郎の髪に埋もれていた手は、大きな手に捉えられた。
指を絡ませ、優しく握られる。