第5章 柱《弐》✔
「…みふひひゃんははへはいはら」
それでも負けじと目の前のぎょろつく目を見返す。
女には譲れない時がある。それが今だ。
こんな男に蜜璃ちゃんはあげられない。
「何故、お前が、甘露寺の所有者を語る。殺すぞ」
「ムグフッ!?」
うわ聞こえてた。
ばっちりしっかり聞こえてた!
「や、やだ…二人共争わないで…落ち着いて…♡」
「ふむ? 嬉しそうだな、甘露寺!」
外野ではなんだかきゅんきゅん音が聞こえてくる。
平和でいいですね。
というか顎が! ミシミシいってる!
このままじゃ顎が割れる! 離して貰えませんか…!!
と願った途端、いきなり口元を解放された。
「ぷは…!」
た、助かった。
一体誰が……うわ。
「……」
無言で蛇男の手首を掴んでいたのは冨岡義勇だった。
な、なんだか見覚えのある光景…そしてもうそんな時間だったの。
楽しい時間程あっという間だな…。
「冨岡か…お前、この鬼の命を預かったなど聞いていないぞ。何故柱合会議で話さなかった」
「柱合会議の後に、お館様と契を交わした」
ちゅうごうかいぎ?って、あの柱合会議?
その後に契を交わしたとなると、結構前に開かれていたのかな。
「さっさと処刑されるものと思っていれば、甘露寺を湯浴みに連れ込むなど。だから鬼は下衆(げす)で大嫌いなんだ」
げ、下衆…。
雑魚の次は下衆、ですか。
というか連れ込むって。
そんな私が無理矢理お風呂に連れて行ったような表現はやめてくれませんか…。
と思うものの口は挟めず。
湯浴みと聞いた冨岡義勇の目が、私へと向く。
と、感情のない視線が頭から爪先まで辿る。
無言で品定めされているみたいで、なんだか居心地が悪い。
「さっさと殺せ」
「殺しはしない。こいつが本当の鬼に成り下がらない限りは」
「何処をどう見ても鬼だろうが。それ以外のなんになる」
確かに伊黒小芭内の言い分には一理ある。
私は例外なく鬼だ。
それでも冨岡義勇は、その意志を一切曲げなかった。
「こいつの牙が血で染まった時は、その言葉を聞こう。それまでは俺の契を通してもらう」
「それからでは遅いと言っているんだが?」
ミシリと蛇男の額に青筋が浮かんで、空気が殺伐としたものに変わる。
いけない。