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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第5章 柱《弐》✔



「彩千代少女が嬉しいと、俺も嬉しい」

「…そう?」

「にしても彩千代少女の髪は柔らかいな」

「そ、そう…?」


 くしゃくしゃと頭を撫でられる。
 子供扱いされているような、でもなんだか凄く嬉しいことを言われたような。

 恥ずかしくて、あまり杏寿郎の顔が見られない。
 俯き加減に微動だにできずに大人しく撫でられていると、横からきゅんっという音が……きゅん?


「っ! っ!!」


 ちらりと横を見れば、頬を染めて口をぱくぱく開閉しながら満面の笑みを浮かべている蜜璃ちゃんがいた。
 …なんだか盛大な心の叫びが聞こえてきそう。


「煉獄までもか。何を鬼と仲良くしている」


 頭に乗っていた手が不意に離れる。
 違う、ぐいとそれを押し返された。
 足音もなくすぐ傍に来ていた、あの伊黒小芭内という男に。


「仲良く?…今のは仲良くしていたのか?」

「でなければなんだと言うんだ。いつから柱の屋敷は鬼が寛ぐ場所となった。分をわきまえろ雑魚鬼が」


 ぎろりと鋭い金色の右目がこちらを向く。


「雑魚は雑魚らしく泥水で体でも洗っていろ。図々しい」

「……」


 口わっる!

 不死川という男も大概口が悪かったけれど、この蛇男は語彙力がある分、心を抉ってくる。
 こんな男、蜜璃ちゃんに相応しいのか疑ってしまう。


「わ…私の悪口は、どれだけ言ってもいい。けど、それを蜜璃ちゃんに少しでも向けたら、許さない、から」


 ビシビシと肌に感じる程の敵意剥き出しの柱に、啖呵を切るのはそれなりの度胸がいる。
 声は吃ってしまったけど、それでも言いたいことは言えた。


「…なんだと?」


 ぎょろりと更に吊り上がった目が殺気を向けてくる。

 私を嫌うのは別にいい。
 でも私に優しくしてくれる蜜璃ちゃんにまで暴言を吐くのは、お門違いだし許せない。


「もう一度言ってみろ」

「っ…私はいいけど、蜜ムグッ」

「馴れ馴れしく呼ぶな雑魚が」


 言ってみろって言った癖に、口を鷲掴まれて強制的に沈黙させられた。
 ぬっと顔を寄せて凄んでくる相手は痩せ男なのに、すんごく怖い。

 というか肩に乗っている蛇までも顔を近付けてくるから凄く怖い!
 ちろちろ出てる赤い舌が頬に当たりそう! 怖い!!

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