第14章 燈火の 影にかがよふ うつせみの
しかし今は、その体に手を伸ばすべきではない。
それ以上に求めているものがあった。
「…もし本当に、俺と蛍の間に新たな命という形で、繋がりができたなら。その時は君を娶りにいこう」
「……え?」
「む?」
握り締めていた手を口元に寄せて、口付ける。
そうして告げた言葉に、ぽかんと惚けた顔で見上げてくる蛍の様が、先程の情事と重なった。
先程と違うのは、顔は高揚しておらず、目も潤むことなく見開いている。
本気で驚いているのだろう、蛍の表情に、伝わり難かったかと再度杏寿郎は口を開いた。
「蛍が俺の子を孕んだら、その時は俺の妻になって欲しい。と、そう言ったんだが」
「つま…?」
「そうだ」
「…っ!?」
ぶわ、と赤みが差し込む蛍の顔に、今度こそ伝わったかと杏寿郎の顔も明るくなる。
しかし蛍は違った。
「つ、妻、とか…そういう意味で、繋がりが欲しいって言った訳じゃ…というか繋がりっていうのも、その、子供、とか、そういう意味では…」
「違うのか?」
「ちっ…」
がう、と言いかけた言葉は、蛍の口内で留まった。
杏寿郎との子供が欲しくて、繋がりを求めた訳ではない。
それでも彼の欲に染まる直前、そうなってもいいと思えたからこそ迎え入れたはずだ。
「この世で最も慕う女性(ひと)を見つけられたなら、俺は全力で守りたいと思うし、伴侶となってずっと傍にいて欲しいとも思う。願わくば俺の子を産んで欲しいとも」
口籠る蛍とは正反対に、迷い無く告げる杏寿郎の言葉には軽はずみな想いなどなかった。
その一言一言に、真剣さと熱意を感じる程に。
比例するように蛍の頬に熱みが増していく。
それでも反応できなかったのは葛藤もあったからだ。
(でも…私は、鬼だよ)
その葛藤は口には出せなかった。
鬼であることなど杏寿郎は蛍以上に覚悟して、今を迎えてくれた。
問わなくても答えはわかっている。
それでも、例え互いが認めても、周りは認めないかもしれない。
ただ互いを想い合うだけではない。
夫婦となるには、越えなければならない障壁が沢山ある。