第1章 虹。
side コウ
吸いたくて吸いたくて、でも吸いたくなかった。
吸う以前の問題だ。
人外な存在、元々人間だけど今は人間じゃない。
それが知られてしまえば、いくら他よりズレた彼女でもオレに対しての対応も変わってくる。
変わってしまう。
避けられる。
怖がられる。
離れていく。
そんなの、後免だ。
彼女が居なくなるくらいなら、オレが我慢すればいい。
他の誰かの血を吸えば倒れる事も無かったんだろうけど、それは嫌だった。
彼女の血じゃなきゃ、嫌だ。
二ヶ月前の、あの日。
彼女がオレに向けた笑顔は地球上のどんなものよりも、綺麗だった。
いや、だったじゃない。綺麗。
心臓を無くした胸が高鳴ったのなんて、カールハインツ様に救われて以来だった。
いや、あの時と彼女の笑顔を見た時の高鳴り方は違う。
闇の眷属、ヴァンパイア。
そんなオレにとって、彼女の笑顔は正反対すぎた。
吸ってみたい。
吸いたい。
コウ「・・・本当、ごめんね?」
くたり。と横になっている彼女が心配になって、そんな言葉しか出てこなかった。
吸って、しまった。
彼女が許可してくれたとは言え、オレは彼女の血を吸ったんだ。
怖くなかっただろうか。
意識はちゃんとあるだろうか。
トラウマになっていないだろうか。
イオ「・・・・・・」
コウ「・・・、ヒメ猫ちゃん・・・?」
イオ「・・・うーん、新感覚・・・」
コウ「・・・え?」
イオ「なんか、身体が軽くなった気がする」
コウ「そりゃ、まあ・・・血が吸われたんだし」
イオ「ちょい痛かったけど、コウくん元気になってくれたみたいでなにより。
てかなんで謝ったん?」
コウ「なんで、って・・・」
イオ「人間じゃなくてヴァンパイアなだけでしょ?
コウくんはヴァンパイア、それだけじゃん。
私は変わってるから嫌ったりしませーん」
コウ「・・・!」
残念でした、安心してね。
イタズラが成功したような、間の抜けた笑いを浮かべるヒメ猫ちゃん。
・・・不安だったのに、オレが人外でもいつもの彼女にひどく安心した。