第33章 Discuss〜一歩踏み出すために〜
「櫻井さん!これ、大野さんに…」
「えっ??」
取材を終えて片付けをしている横で、彼と談笑していると、『あ、そうだ』と脇に置いたカバンから箱を出して来た。
「これを、大野に?」
「うん…試合でフランスに行ったとき、ファンの人がくれたんだけど…俺、使わないし…」
「…??」
「絵筆」
あ~…筆か。
それにしちゃあ、ずいぶんと立派な…
彼に手渡された木の箱は、綺麗な赤いリボンが掛けられていた。
「ラファエル、っていったかな?昔の画家さんたちが使ってたらしいんだけど…俺が持っててもね~」
「あ~。いいの?もらっちゃっても」
「もちろん!」
「大野、きっと喜ぶと思います!」
「よかった~(^-^)」
笑顔の彼から手渡された箱は、ほんの少しだけ、俺を困惑させた。
絵筆……
俺と暮らす中で、いつの間にか絵を描かなくなってしまった智…
それが切欠で、今こうなっているんだから…
そんな今、智に絵筆を渡すって…
どうなんだろう~?
でも……
捨ててしまう訳にもいかないし。
なんなら、ちゃんと大野智からも、お礼を言わないと失礼だろうし…
困惑しながらも、それを鞄に仕舞って次の現場へと向かう車に乗った。
その日二つ目の現場を、1時間巻いて終わらせた俺は智からのLINEを確認した。
『翔ちゃ〜ん❤️先やってるよ〜🍀』
そのメッセの後に、ご友人だという真っ黒に日焼けしたマッチョと、肩を寄せあってジョッキを合わせている写メと、店の名前と場所が書いてあった。
代官山か…なんか、ずいぶんとおしゃれなとこにしたじゃん(-.-)
つーかさ。
ちょっと接近しすぎじゃね?
いくら、親しいご友人といったってもさ……