第32章 turning point~転機~
自分は強く拒絶して、シャワーさせてもらっておいて何だけど。
そのまま、抱いてくれるのかと思っていた…
別に、翔ちゃんはそのままでもいいのに…
だって、俺と彼とじゃ…綺麗にする意味が…
「はああぁ~…」
肩透かしにあったような気持ちと、
初めて抱かれる時みたいな、不思議な緊張感を落ち着かせようと、窓を開けてベランダに出てみた。
ちょうど半分の月が、空に登っていた。
あれは…上弦の月…かな?
なんだか、こんな風に月を見あげたのは久しぶりな気がした。
忙し過ぎて、って訳じゃ、全く無いのに…
無かったはずなのに……
ここ最近、ベランダで外をゆっくり観たなんて…そんなこと、あったかな?俺…
「…あ~っ…寒っ」
こんな時間になると、流石に夜風が、身に染みた。
「…智~?」
お風呂から出た翔ちゃんが、ベランダの窓を開けた。
「………」
パジャマを着こんでいるその姿に、心臓がキュッと痛んだ。
どうして、パジャマ…なんか…
直ぐに抱いてくれる気なら、俺と一緒でバスローブでいいじゃん。お揃いのヤツ、カゴに入れといたのに…
黙って何も言わずに俺の側まで来て、手すりに両手をついた翔ちゃんは、
「ああ~、月が出てんな…半分だけ。
見えないもう半分の方はどうしてんのかな~?」
そう言って、身体の向きを変え、手すりに凭れた。
どんぐりみたいな大きな目が、俺を見つめる…