第32章 turning point~転機~
よく考えてみたら、
『何か描かなきゃ』なんて、そんな切羽詰まった気持ちでキャンバスに向かっても、
描けるはずない……
今までは、何か別の事をしていても、
『あ、これ描いてみたい』
『こんな風に描いたらどんなふうになるかな?』
そう思ったら、いてもたってもいられなくて、
気が付いたら鉛筆やサインペンを握ってたんだ。
それからはもう夢中になって。
時間が経つのも忘れて…
明日早いのに…もう止めなきゃ…
なんて分かっていても、止め時が分かんなくなって。
結局明け方近くまで描いてしまい、
翔ちゃんに怒られたりして…
………なんで、描けなくなったんだろう?
描きたいって、思わなくなったんだろう?
翔ちゃんは、家庭のことに頑張りすぎてるからだって、
そう言ったけど。
そんなことないと思う。
家のことが負担になってるなんて、
そんな事は思わないし、
それは違うって…自信を持って言える。
でも。
だったらどうして?
分からないよ…
ちゃんとした理由を言わないと、
翔ちゃんは分かってくれない。
いつだって理路整然と、ツッコみどころがなく話す翔ちゃんの屁理屈に、
↑屁理屈ではない…
俺が敵う訳ないし。
でも俺…
彼と離れるなんて、
そんなこと考えたことも無いし、
考えられないよ…
ぐるぐると、行ったり来たり、
ただ考えながら、
俺はいつまでも真っ白なままのキャンバスの前に座っていた。