第31章 僕が僕らしくあるために
「少し、歩こうか?」
「え?ここから見るだけじゃなくって~?」
「うん…もう海水浴のお客さんもいないしさ…」
「…うん、いいよ~♪」
一応周りを見回しても、ずっと遠くを犬を連れた人が歩いているだけで、夕暮れ間近の海岸は静かだ。
「ああ、いいね♪船の上から見るのとは全然違うよ」
智はそう言うと、履いていたサンダルを脱いで裸足になった。
「砂、温かいよ~…気持ちい♡」
「うん…」
暫く二人で波打ち際を歩いて、真っ白な流木に腰を下ろした。
その間、お互いに何も話さない…
もしかして、智…何か感じてる?
「………」
「……」
夕陽が大分傾き始めている…
空が…夕暮れて、オレンジ色に染まっていく…
「…綺麗だね…」
「うん…直ぐにもっと赤くなるかな?」
「凄いな~…なんかさ。こうやってどんどん変わってくのを見てると、地球って回ってるんだな~…って、実感する」
智が、珍しくそんなこと言うもんだから、
なんだかちょっと泣きそうになる…
…キャラにないことしないでよ…全く…
じゃあ、俺も…
「…夕陽ってさ、明日まで自分の事忘れられないように、一日の最後に最高に美しい姿を見せるんだってね~」
「なんかそれ、前にも言ってなかった~?」
「え、そうだっけ~?」
「分かんないけど…でもホントに…こんなに綺麗なら…絶対に忘れないよ…
また見たいって…そう思うしね…」
「…そうだね…」