第31章 僕が僕らしくあるために
智がリールのドラグを強く締め込み、竿を立てる。
すると、ミディアムヘビーの竿が曲がるほどの強さだ。
徐々に右前方20mほど先に、魚の影が…
「よし!やっぱりシーバスだ!
しかも、観たことないレベルだよ」
長い時間をかけて格闘した結果、
巨大なシーバスがやっと引き上げられた。
「やったああぁー!!翔ちゃん凄いよ~
初心者なのに!!こんな大物!」
「いや、釣ったのほぼ智じゃん…
智がすごかったよ~!…カッコ良かった♡」
最後のつぶやきを、
智は聞き逃さなかった。
独り言だったのに…
「そぉう~?俺、カッコ良かったかな~?」
「う、うん…とっても…」
『んふふふふっ(^-^)♡』
あ、やべっ…
なんか変なスイッチ、
押してないよな?俺…
智の笑顔に、背筋が一瞬寒くなったのは、
気のせいだろう…きっと…
「二人で…だよ♡」
そう言って智は、とびっきりの笑顔を見せた。
「凄いですね~、この時期でめったに見られませんよ~!」
メジャーを片手に船長さんも興奮気味だ。
俺の竿で、智が釣り上げたシーバスは、
90cm、5.7kgあった。
「重たい訳だよ…こんなのがいたなんて…」
「翔ちゃん、俺と来るといつも俺よりも大きいの釣るよね!マジで才能あるよ~」
「単なるビギナーズラックだよ(^^;」
大盛り上がりで幕を開けた海釣りは、
シーバスはそれだけで、あとは鯵やカマス、サワラなんかがかかって、それを船の上で船長さんがさばいてくれて、ご馳走になった。