第31章 僕が僕らしくあるために
道は当たり前だけど空いていて、
予定通りにホテルに着いた。
「お待ちしておりました」
出迎えてくれたドアマンはにこやかに俺たちふたりを迎えてくれた。
通されたのはフロントではなくロビーの奥のソファー。
程なくして現れたのは恰幅のいい紳士。
胸のプレートには『総支配人 江口』と書いてあった。
「本日は、遠いところを良くいらっしゃいました。お父さまから伺っております。」
「そうですか。いつも父がお世話になっています。今日はよろしくお願いします。」
慌てて立ち上がり挨拶すると、江口さんは、目を細めて、
「立派になられましたね…私が時々お宅に伺っていた頃は、翔さんはまだ小学生で…」
「そうですか…すみません、よく覚えていなくて…」
「無理もありません…何人も私のようなものがいたでしょうしね~」
浅黒い肌に白い歯が印象的な江口さんは、智の方を向き、
「お疲れになられたでしょう?今、部屋に案内させますね」
そうにっこりした。
「はい…よろしくお願いします…」
俺たちが通されたのは、最上階の貴賓室。
「どうぞ」
中居さんがドアを開けてくれた先には、部屋までの畳敷き、その向こうに大きな窓…
そしてキラキラ光る海が見えた。
「わああ~、凄い!!こんないい部屋じゃなくてもよかったのに…」
思わずつぶやく智に、中居さんは、
「歴代の総理も何人かお泊りいただいています」
と、頷いた。
そうだろうな~…
最上階に1部屋だけなら、警備も楽だろうし。