第31章 僕が僕らしくあるために
「いいね…もっと歌って」
「え~?…いいけど…」
そう言うと智は、アルバム収録曲をサラッと歌い出した。
……綺麗な声…
澄んだ声…って、番組の罰ゲームで、『自分の好きなところ』としてあげてたっけ…(^^;
BGMにと流していたBluetoothの音量を絞り、智の歌声に聞き入った。
本当に……
智は才能豊かな人だ。
歌に関して言えば、我々が絶大な信頼を寄せる
嵐のメインボーカルだし、
ダンスも。
ジュニアの頃からジャニーさんに
『あの子を手本にしろ』と言われたくらいに、
抜群のダンスセンスだ。
絵も…独特のセンスで、俺が考えもつかないような絵を描きあげる。
腕前は、ある意味プロ並み。
字も上手い。
書道を習っていたというだけじゃない…
彼の持っている感性が光る。
指先も器用で、
粘土で人形やその服も手作りする。
俺にはない天才的な才能を数多持っている…
それが大野智っていう人間なんだ。
………忘れていた。
近くにいすぎて。
側にいることが、当たり前になりすぎてて。
…見失っていた。見えなくなってた。
俺の…
「翔ちゃん?」
……
「ねえ、翔ちゃんってば!」
「あ、えっ??何?」
「運転してんのに、ぼんやりしちゃダメじゃん!」
「ああ、ごめん…考え事してて…どした?」
「…おしっこ」
「…あぁ…」
そうだよね(^^;
新幹線下りてもトイレ寄ってないし…
「ごめんよ…」
俺は途中にある道の駅に車を止めた。