第31章 僕が僕らしくあるために
結局。
智は自分のおにぎりは一個ぺろっと平らげた後、
俺の紅鮭いくらもしっかり半分ゲットした。
「やっぱりね~、こっちも美味しかったね♪
俺と翔ちゃんってさ~、昔っから、味の好みぴったりだったもんね~♡」
まあ、いいけどね…
智が嬉しそうなのが一番だから。
それにしてもハート♡飛ばし過ぎじゃね?
しかし…
俺、出だしっからこんなんで、大丈夫かな~?
今回…
忙しいスケジュールをなんとかやりくりして、彼を旅行に誘ったのは他でもなく…
俺の考えを智に話すため。
俺がずっとずっと考えてたどり着いた答えを、
智に分かってもらうため…
でも、出だしから、彼の毒気にやられてる俺、
ちゃんと話せるのかな…
不安が募る俺の気持ちはそのままに、
新幹線はすべる様に周りの景色を置き去りにして走り。
お腹いっぱいになった智は、すっかり夢の中…
夕べ遅くまで釣りの道具をひっくり返していたから、寝不足なんだろうけどね…
俺の肩に凭れて、あどけない顔をして眠る智…
その肩の重みを目を閉じて感じてみる。
俺が智の人生を背負っていくんだなんて、
そんな風に思ったこともあったけど…
違ったんだよね…
智は智
『大野智』という唯一無二の存在で、
俺はその大切な存在と、共に人生を歩いていくと決め、今まで歩いてきたし、
これからもその思いに変わりはない…
変わりない…けど…
「んん~…おいち♡」
…夢の中でも食ってんのかよ(-"-)
窓の外の景色は、
いつの間にか山間を抜け、広々と開けた大地に移っていた。