第31章 僕が僕らしくあるために
新幹線で2時間の旅。
珍しく大きな旅行鞄に荷物を詰め込んだ智は、朝から笑えるくらいにはしゃいでいた。
あ…正確に言うなら夕べから…だ。
「おにぎり買ってこうか〜?」
「うん、いいよ!いつもの翔ちゃんのルーティーンだもんね♪」
いやいや…
ルーティーンって程でもないけど(^^;
平日のグリーン車は空いていて、
出張なのかな?
サラリーマンたちは椅子に座ると、新聞を広げたり、モバイルを繋げたりしていて、幸い、他人のことには興味がないようだ。
鞄を棚の上に置いて、
俺たちは仲良く腰を下ろした。
「翔ちゃ〜ん♪天気良くて良かったね〜」
「だよね〜、雨降ったら釣り出来ないしさ」
「そうなんだよ〜、日本海は荒れるからって、雨だと合羽も用意しないといけないしね~…」
…おまえ、雨でも、やる気だったんかよ(--;)
「ハイ、翔ちゃん、お茶♪」
「おう、サンキュ~」
「おにぎりは~…えっと、最初のはね~…
紅鮭いくらと、海老天、どっちがいい~?」
「えええ?いきなりそっから攻める~?」
「ほら、どっち?」
「んん~…じゃあ、べに…」
「こっちでしょ?はい、紅鮭いくら!」
聞いといたくせに、自分で決めて俺に押し付けてきたおにぎりは、俺が一番好きなヤツ…
「…おう…ありがと」
始めっから分かってんなら、
どっちがいいかなんて聞くなよ(^^;
俺の前のテーブルにじゃこと梅、
自分の前には日高昆布を置き、
満足気にシートに凭れると、
智は、ゆっくりとした動作でペットボトルのふたを開けた。