第30章 蜩〜ひぐらし〜
忙しい日々の中、
智はいつもと変わらない…
ドラマの番宣が次々入って目まぐるしい中…
ちょっとした空き時間に
わざわざ家に帰って来て、
掃除をしたり夕飯を作ったりしていた。
俺は、そんな智を、今までとは違う気持ちで見つめていた。
『忙しいなら、家のことは無理すんな』
そう言ってやることは簡単だ。
だけど…
そうじゃない…
これからもずっと
智と共に人生を歩んでいくということを、
改めて考えていた
考えて、考えて…
当たり前なんかじゃない…
俺にとっての智の存在を……
「翔ちゃん…なんかこの頃変だよね?」
そんな俺に智が言う。
不安な訳じゃない…
素直に感じたことを口にしただけ、という顔をして…
「……智…」
「ん~?」
「愛してるよ」
「えっ、どうしたの?急に~」
「急に言ったらダメなの~?」
「え~…ダメじゃない…けどさ…」
「智…愛してる…」
「翔ちゃん…」
「ギュウって、していい?」
「…ん…」
俺は智の身体を抱き締めた。
壊さないように、そっと…優しく…
首筋に顔を埋めると、
智の匂いがした…
俺の大好きな匂い…
いつも側にあって、
俺を包み込んでくれる
そのまま、胸いっぱいに智の匂いを吸い込むと、
智はくすぐったいのか、
ほんの少し肩を竦めた
それでも何も言わず、
されるがままに、
ずっとずっと俺に身を預けていた。