第30章 蜩〜ひぐらし〜
「リーダー、怪我したんだって~?」
その二日後の収録、
相葉くんが部屋に入ってくるなり智に声をかけた。
後ろからついてきた松潤も心配そうに智の顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ…大したことないのに、騒ぎ過ぎだよ」
「そんなことないよ!一歩間違えば大事故でになったって…」
「この人、聞いたとき泣いてたからね~」
「泣いてないよ!泣きそうになっただけ!」
ニノと相葉くんがいつもの調子でやり合っている。
平和な楽屋
いつもの空気感
そんな中で、智が笑っている…
当たり前の風景を、
今まで当たり前で、当然だって思ってたけど…
そうじゃないんだ…って気付く。
俺たちは、
それぞれが、それぞれを思いやり、
尊重し、尊敬し、
そうして成り立っているのが俺たち嵐だ。
まあ、別の関係もあるんだけど…
こういう関係性が出来るまで、
まだ子どもだった俺たちは『嵐』という名で集められ、括られた。
まあ、名前も不本意以外の何ものでもなかったけど。
それはいいとして…
俺は…
大切なものを見失っていたんじゃないか…?
『当たり前』というぬるま湯に浸かりすぎて、見えてたものも、見えなくなっていたとしたら??
「翔ちゃ~ん、どうしたの~?怖い顔して~?」
ニノに言われてハッと我に返る。
「え~?怖い顔?してたかな~?」
「うん…犯人追いつめた刑事みたいだったよ…」
「犯人って…」
笑う俺の視界の隅で、智が少し心配そうな顔をして、じっと見つめていた。