第30章 蜩〜ひぐらし〜
その後は、俺が焼いた『味の〇冷凍餃子』で夕飯にした。
俺が用意してくれたことが嬉しいって、
智は珍しくたくさん食べた。
「まだあるから、どんどん焼くよ~?」
「そんなに食べたら、太っちゃうよ~」
キッチンでフライパンと格闘する俺に、智が笑った。
「そんなの気にすんなって!大体少し痩せただろ~?
食わなきゃダメだよ!!」
1週間ぶりの食卓には、俺の焼いた羽根つき餃子と、
智が買って来た土産の地酒が並び、
映画のロケ話をつまみに時間を忘れて語り合った。
酒が進むと、現場の辛かった話しも出てきて…
「火薬使って…智以外にも怪我した人いるの?」
「うん…2人ね…スタントの人…
だけど、大怪我でもないしさ…
でも現場が止まるし、エキストラの人たちもザワザワして…」
騒然となる現場の雰囲気は、容易に想像できる。
「そうだよな~」
「スタッフさんも怒られちゃうし…
俺が、ピリ着いた雰囲気を変えたいって思ったけど…
ほら俺さ、そう言うの、翔ちゃんみたいに得意じゃないしさ…」
手を伸ばして、そっと智の頬の絆創膏に触れた。
「痛かったね…びっくりしたでしょ?」
「……しょおちゃん…」
そっと智の頬を撫でると、
彼は急に泣きそうになって俺の胸に抱きついて来た。
「智…」
「しょうちゃん!」
背中に伸ばされた手が、しがみついてくる
「頑張ったな…ドラマ終わって直ぐだったから…
無理してたんだろ?」
「そんなことないけど…
…でも、少し疲れたよ…」
「うん……うん…」
腕の中に帰って来た愛すべき塊を、
いつまでも抱き締めて、
その匂いを胸の中に集め続けた…