第30章 蜩〜ひぐらし〜
「ただいま~!!翔ちゃん!!」
玄関を開けると、
智がバックを放り出して飛び付いてきた。
「だぁあああっ//////」
予期せぬ襲来に、智の身体を受け止めたまま後ろに倒れた。
「ちょっと~///なんだよ、急に~」
「だって、会いたかったんだもん!!」
「あああ~、翔ちゃんの匂いだぁ~♡」
そう言いながら、智は俺の胸に顔を埋めて、グリグリと鼻を動かした。
「あ、ちょっ///くすぐった…やめろって…」
「………」
胸の中にあるその身体を、動けないように強く抱き締めると、智はそのままじっと俺の胸に顔を付けたまま静かになった。
「…智…」
「……」
「…智…顔見せてよ…」
支えた塊と共に起きながら、身体を離すと、智はゆっくりと顔を上げて俺を見た…
その頬と額に肌色の絆創膏が張ってあった。
「…これか…深いの?」
「うんん…縫う程じゃないし、直ぐに治るって…
一応注射してもらった」
「注射?」
「うん、破傷風と化膿止めだって」
「そっか…」
そっと、指で傷に触れると、智は眉を下げて困った顔をする。
だから…
「ちくしょ~、俺の大事な嫁を傷者にしやがって!
責任とってもらう!」
「そんなの~、もともと傷なんかあるし…」
「釣りで怪我したヤツな…これ!」
「シミもあるし…」
「こっちか!日焼けの蓄積だな~?」
「だから、どうってことないから…」
智は、そうふんわり笑って俺から離れた。