第30章 蜩〜ひぐらし〜
「大丈夫みたいですよ~?少し頬に石が飛んだみたいで…」
「石!?」
「あ、でも小石ですから…ほんのかすり傷くらいで…大事には至らなかったって…」
「小石が…」
「すみません…てっきり大野さんから連絡行ってて、それで心配して眠れなかったんだとばっかり…
余計な事言っちゃいましたね…」
「いや、ありがと…教えてくれて…」
「私ちょっと、打ち合わせ行ってきますんで…」
「あ、うん…」
マネは、俺に話してしまったことでバツが悪いらしく、そそくさと部屋を出ていった。
………智…何で言わなかったんだろ?
大したことないからか?
俺に心配かけたくなかったから…?
きっと、そのどっちもなんだろう…
だけど。
大掛かりな特効が予想される映画の撮影。
智に小石が飛んできたという事実を考えると、それだけでもう、心臓が縮む思いだ。
ジャニーズタレントには怪我のないように、十分すぎるほどの配慮が為されているだろう…
そんな中で怪我をしてしまった智
騒ぎになることを彼が嫌ったことは想像できる
『大丈夫、大丈夫』って…
………智…
携帯を取り出して、思いとどまる
こんな時間だ…
撮影していたら出れないだろう…
だったら……
『智、声聞きたいな』
そうひと言だけLINEに残し、
俺もそのままニュース番組の打ち合わせに入った。