第30章 蜩〜ひぐらし〜
結局眠ったのは明け方近くだったらしく、
俺はマネの何度目かの着信で目を覚ました。
局に着き、楽屋について荷物を下ろしていると、マネが声を掛けてくる…
「珍しいですね!櫻井さんがこんなに寝坊するのは…」
「…ごめん…夕べ眠れなくって」
欠伸をかみころしながらそう答えると、
「大野さんいないと、眠れないんですか〜?」
って…
はぁ~??
俺が睨んでるのに気付かないのか、
気付いても強く出てんのか、
…おそら後者の方だろう…
「櫻井さんがそんなんだって知ったら、また大野さん家空けらんないじゃないですか~」
「…そんなんじゃないよ!」
「昨日ロケ現場でちょっとトラブったっていうの聞いて、心配で眠れなかったのは分かりますけど…」
「えっ?トラブった?智が??」
「えっ??」
マネはしまった…という顔をして固まった。
「何?何か撮影でトラブルがあったの?」
「あ~、いやぁ…えっと、他の現場だったのかも?…ああ、きっとそうだ!間違えちゃったんですよ!すみません、ほんと…」
「おい!何だよ?何か知ってるんなら教えろよ!」
マネが、俺に問い詰められて渋々吐いたのは、智の映画の現場でのこと。
忍者が草原を大勢で走るシーンで火薬が使われ、それが予定していた場所より智の近くで爆発したらしく…
「それで?智は??怪我したんかよ!?」
「く、苦しいですって…手、離して、くださいっ…」
「あ…ごめん…」
つい興奮して、マネの胸倉に掴みかかっていた。