第30章 蜩〜ひぐらし〜
絵…
智が、絵を…
書いてない…
「あの不思議な顔の粘土細工もやってないみたいだし…」
…粘土…
「一時期はそんなことばっかやってたのにね~」
そうだった。
時間があれば画を描いたりしてた…
暗くなったのにも気付かないで、夢中で書いてた…
「電気付けてやれよ~」
帰って智の部屋を覗き、そう声を掛けると、
「あ、翔ちゃんおかえり!暗くなってたんだ~
全然気付かなかったよ…」
って…
そんなに夢中になってたのに…
「翔ちゃん、気付いてたよね?
大野さんが画を描かなくなってること」
「………」
「やっぱりね…」
……そうだ…俺は智の変化に、気付けてない…
って言うより、気付こうともしなかった
俺と一緒にいて、
智が笑ってる…
『幸せだよ』って…
そう言ってくれることで、それでいいって///
そう思ってた…
ニノは…
ニノの方が智の変化に、ちゃんと気付けてるなんて…
………喉が、カラカラに乾いていく…
何か…
俺の中で、
何かが音を立てて崩れていく…
智……
さとし…
ニノはそんな俺のことを、じっと見つめている…
それは非難するような目じゃなくて…
寧ろ…
憐れむ…ような…
「翔ちゃん」
「…うん…」
「きっとあの人も気付いてないんだ」
「え…?」
「絵を描けなくなってる自分に…
だって、いつから書いてないの?って聞いたら、答えられなかったもん…」
答えられなかった…
「自分の変化に、大野さん自身が、気付いてない…」