第30章 蜩〜ひぐらし〜
「えっ?」
ニノの目が俺を射抜く。
何もかも見透かされてしまいそうな、
何でも分かってるんだよ〜♪
みたいな……
そんな目……
「な、なんだよ…」
ニノは潤んだ赤い目で俺をじっと見つめていたけど、口許だけで少し笑ってから目を反らせた。
悪いことしてる訳でもないのに…
どしてこんなにドギマギしてるんだよ…俺
「あの人さ~…もう全身全霊で『櫻井翔』だよね~最近…」
「……全身…?」
ニノは、つまみに頼んだ玉子焼きに大根おろしをゆっくりとした動作で乗せ、口に運んだ。
一連のその動作を、俺はじっと見つめていた。
「自分が翔ちゃんをちゃんと支えたいんだって…」
「えっ?智がそう言ってたの?」
「そ」
「……」
「変わったじゃん…あの人。料理凄いするし、掃除や洗濯はもちろん…翔ちゃんのYシャツのアイロンも、あの人がかけてるんでしょ~?」
「うん…まあ…智が言ったの?」
「俺が聞いたからね~、根掘り葉掘り…酔うと話すからね…いろんなこと」
何だよ…
何をしゃべらせてんだよ…ニノ…
怖いわ…(;'∀')
「翔ちゃんはいつも『ありがとう』って言ってくれるって♪デレデレしながら言ってたよ~」
「あ、そう~」
この間、俺が仕事で遅かった日に、二ノと飲んできたっていって、ベロベロで帰って来た日…
あの時に話したのかな?
「まあね、本人がやりたくてやってるんだから、いいと思うよ~思うけどさ…」
「なんだよ?なんか問題あったの~?」
俺の質問に、ニノは、残ったアルコールをグッと煽って、
「絵…書いてないんだって?」
と言った。