第30章 蜩〜ひぐらし〜
「大野智としては、やりがいのある仕事なんじゃないの~?」
「……うん…まあ…」
……
目を反らす俺を、翔ちゃんがじっと見ている。
見なくたって分かるよ…
全身で感じる…
優しさを纏った、俺の大好きな目だもん…
「智…ここにおいで♡」
胡坐をかいたその膝の上は、魅力的過ぎて、
断わるなんてことは出来るはずもなく…
俺は言われるままに、翔ちゃんの脚の間に入り込んだ。
丁度向かい合う形にくっ付いてるから、
大きな瞳に覗き込まれて、
俺は何だか泣きそうになった。
「俺は、智と結婚すること、全く迷わなかったよ〜!智はどう?」
「俺だって!!結婚するなら翔ちゃんしか考えられないって、そう思ってたもん!」
「じゃあ、今幸せ?俺は最高に幸せだよ」
「俺だって!」
……翔ちゃんの綺麗な顔が直ぐ側にあって、
思わず口籠る…
今更だけど、
ドキドキする…
「だけど、俺が、俺一人が『嵐の大野智』を独り占めしちゃいけないって…できるはずもないって…
そう思ってるんだ」
…しょおちゃん…
「ひとりの普通の人間としての智は俺のものだけど、
嵐のリーダー、大野智は、ファンの子のものだよ…」
「…翔ちゃん…」
「ファンの子が智の忍者を待ってるなら?」
「……俺は精一杯、忍者になる…」
「だよな~(^-^)エライエライ♡」
子どもみたいに頭を撫でられて、
俺はもう、それ以上何も言えなくなってしまった。