第30章 蜩〜ひぐらし〜
「…えっぐっ…んぐぅ…えっ…ぇぇ…」
翔ちゃんが、黙って俺の背中を撫でてくれるから…
その手のひらが、あんまりにも温っかくて優しいから…
俺は涙が止まらない…
黙って…
翔ちゃんは何も言わずに、
俺が落ち着くまで、
俺の涙が止まるまで、
そのままじっと抱き締め続けてくれた。
…………
「……ごめんね…」
「落ち着いた?」
「……ん…これ…ごめ…」
指差す先には、翔ちゃんの綺麗目シャツに、
俺の涙と、…鼻水…かな?こっちは…
「あ~あ、全く…子どもかよっ…」
そう笑う翔ちゃんの目は、優し気に細められた。
「お寿司食べようよ…新鮮なうちがいいじゃん♪」
「うん……」
「簡単に、お吸い物とか、作ろっか?」
「いいよ、お湯入れるヤツ、あったじゃん」
「…あ~、あるけど…」
「それでいいよ!」
「俺がやるよ」
「いいって!智は座ってろよ。お湯くらいなら、俺にだって入れられるし~」
「…大丈夫~?」
「おいっ!!」
翔ちゃんは笑いながら、お椀を二つ出して袋を中にあけ、ウォーターサーバーからお湯を注いだ。
「お、旨そっ!!いっただきま~す(*^^)」
「…本とだぁ…美味しそう(^-^)」
俺たちは向かい合って、翔ちゃんが買ってきてくれた銀座の特上寿司を頬張った。
「あ、旨んめっ」
「うまっ」
優しくて穏やな時間が、ゆっくりと流れた。