第30章 蜩〜ひぐらし〜
キョトンとする俺に、翔ちゃんは、
「映画、決まったんだって~?
何で隠してたの?」
そう笑った。
「あ……」
「驚かそうと思ったの?忍者なんだって?
凄いアクションとかあるらしいじゃん!
智にぴったりだよ~、楽しみだな~(^^)」
「…うん…」
……
「智…まさか、断る気、じゃないよね?」
え……
喜んでるのとは違う俺の様子に、
翔ちゃんが気付かない訳はない
「何で?久々に来た映画じゃん!」
「…うん…そうだけど…」
「悩むなんて選択肢、ある?」
「……」
「智…ちょっとおいで…」
翔ちゃんはそう言って、俺の手を引いてソファーに座らせた。
手を引かれるままに、彼の横にくっ付いて座った。
「智…俺は楽しみだよ…大野智の忍者映画。
絶対にカッコイイに決まってる!
はまり役だよ…智の代表作になるかもしれない…
ファンの子たちだってきっとそうだよ。
迷う意味って…何?」
……意味は… …意味は…
「まさかとは思うけどさ。
……俺?迷いの原因って」
「……」
目を合わせない俺に、翔ちゃんは『はあ~っ』っと、
小さなため息を吐いた。
直ぐに何か言われるのかと思ったのに、
翔ちゃんは黙り込んで、自分の顎をぐりぐり撫でながら、何か考えてる顔をした。
……翔ちゃん…
俺、翔ちゃんのこと、悲しませちゃったの?
でも俺…
何かいい訳をしたいのに、
上手い言葉が見つからなくて…
ふたりで黙っている時間が、無限にも感じた。
ほんの数十秒なんだけどね…