第30章 蜩〜ひぐらし〜
正直少し悩んだ。
だって映画の撮影が始まれば、
どうしてもそっちに掛かりっ切りになっちゃう…
俺は器用な方じゃないから、
役作りに入るとそれで頭がいっぱいになるし。
ロケで地方に何日も泊まる、なんてことになれば、
翔ちゃんに会えないし…
翔ちゃんのご飯は誰が作るの?
掃除は?洗濯は?
翔ちゃんがzeroに着ていくワイシャツに、誰がアイロン掛けるの?
(…つ~か、そんなことまでやってたのね~)
だけど…。
断わるなんて選択肢、あるのかな?
マネから映画の話を聞いてから、
誰にもその話をできないまま、数日が過ぎた。
「ただいま~♡」
「おかえり!翔ちゃん!お仕事お疲れ様♡
…(ちゅっ♡)」
↑お帰りのチュウ―したのね~(;^ω^)
「今日は早かったね♪電話くれれば良かったのに~」
「CM撮影、2時間巻いて終わったんだ!
智を驚かせようと思って~(^-^)褒めてくれる~?」
そういいながら軽く腰を曲げて頭を下げた翔ちゃんは、
「エライエライ!流石、翔ちゃん♡」
頭をなでなですると、嬉しそうに目を細めた。
「まだ、晩御飯の用意、何もしてないよ~、
待っててね!今から急いで…」
「はい、これ!」
「これ…って…?」
翔ちゃんが俺に差し出したのは、
あの有名な銀座の寿司屋さんの袋…
袋だけってことはないだろうから、
中身は……
「お祝いに、特上寿司、買って来た🎵」
おい、わい…?
お祝いって…
今日はどっちかの誕生日だったっけ?