第29章 君と紡ぐ時間
智の膨れっ面に、後ろ髪を引かれつつも、俺はエレベーターのボタンを押した。
「おはようございまざ~す!」
CM撮影の現場は、今日も活気がある。
「おはよう、櫻井くん、今日はよろしくね!」
「あ、おはようございます。よろしくお願いします」
今日はもうずっとやらせてもらってるCMの最新版の撮影。珍しく人気若手女優さんとの共演なんだ。
「櫻井さん、おはようございます!今日はよろしくお願いします」
「あ、おはようございます!充希ちゃん、今日はよろしくね~」
「はい。いろいろ教えてください」
「教えるなんて…楽しくやろうね!」
「はい」
いい子だなぁ~、明るいし、礼儀正しいし。
やっぱああいう子が、残ってくんだろうな~…
充希ちゃんを目で追っていると、
「櫻井さん、そんなハート♡の目で見てていいんですか~?言い付けますよ」
はっ~??
俺はマネを睨んだ。
ハートの目なんかしてねーし!!
ちょいちょい俺を弄り始めたな~、こいつ…
抗議してやろうと口を開き始めたその瞬間、
「ここんとこ。」
マネは自分の首を指差しながら言った。
「ファンデーションで消してもらってくださいよ!」って。
えっ?消す?
慌ててマネが指差した辺りを撫でてみた。
「痕…残ってますよ…大野さんに言っといてくださいね~?見えるところには残さないでください、って…」
そう言い残して、マネは打ち合わせに行ってしまった。
……また、弄られた…(;^ω^)