第29章 君と紡ぐ時間
「お、いい匂い♪」
着替えてリビングに行くと、
ふんわりバターの焼ける匂いに、反射で腹が鳴った。
ダイニングテーブルには、うなぎの白焼きと、しじみの味噌汁、綺麗な形のオムレツが並んでいた。
なんか、妙な取り合わせではあるけれど……
朝が苦手な智が、早起きして俺のために頑張って作ってくれたんだって…
そう思うと嬉しい反面、少しだけ切なくなった…
「…はい、どうぞ♪」
さっき怒ったふりして見せた智は、もうすっかり笑顔で、俺のマグカップにいつものアイスカフェラテを入れて持ってきてくれた。
「ありがと♥️」
「早く食べちゃお!何気に忙しいよ〜」
「お、ホントだ〜。いっただきまーす!」
「めしあがれ♪」
二人で手を合わせて箸を取った。
朝は弱くて、なかなかベッドから出てこなかった彼は、いつからか俺より早く起きて、朝食を作ってくれるようになった
『無理しなくていいから』
って言ったら、自分がしたいんだから気にすんな…って…
そう笑った。
その笑顔に、
『朝飯なんか、コンビニでいい』という言葉を飲み込んだのはいつだったかな……
「いってらっしゃい…」
「いってきます…」
玄関まで見送りに出てきた智に微笑んで背を向けた。
ドアの取っ手に手をかけて、そのまま止まった。
そんな俺に智は何も言わない。
……分かってるんだ。
俺がこの後、どうするのか…