第27章 愛しき日々よ
館内はまさに水を打ったような静けさで、
俺たちの靴の音だけが響いていた。
「ゆっくり観ればいいよ」
翔ちゃんは、俺の邪魔をしないように、
って思ったのか、
少し後ろからついてくる。
...作品について、話したいのに...
翔ちゃんの気遣いが、嬉しい反面、
ちょっと寂しかった。
自分が、こっち方面は疎いって分かってて、
実際に、
それほど興味もないのかもしれないけど...
目の前の、建物の画に目を奪われながらも、
やっぱりさ、
誰かと、感動を共有しながら
観たいじゃん...('ε'*)
週末ともなると、
その絵の前に黒山の人だかりになる、
『水差しを持つ女』
今回日本初公開、フェルメールの傑作だ。
その前で、ずっと見入る俺の横に、
翔ちゃんが並んだ。
「その後ろのタペストリー、
何度も書き直したんだってね...」
目線は絵の方に向けたまま、
さらっと解説する彼。
「そうだよ!より前の女性を
際立たせるために、計算されてるんだ!
翔ちゃん!よく知ってるね///」
俺は嬉しくって、興奮気味に言った。
彼は少しテレながら、
「一応、勉強してきたからね...」
と笑った。
......もう!翔ちゃん!!
俺は、そんな彼に、
胸が苦しいほどに感動してしまい、
思わずギュッと手を繋いだ。
一瞬、周りを見た彼は、
目を細めて笑い、
俺の手を握り返してくれた。
その後は、ずっと手を繋いで、
ふたり並んで画を観て歩いた。
くすぐったくてさ、
本当に、
ほんとーに、幸せな時間だった。