第27章 愛しき日々よ
渋谷から、ふたりを乗せたタクシーは、
夜の街、六本木通りを、滑るように走る。
運転手に隠れて、手を繋いだ❤
と思ったら、もう、
目的地に着いてしまった...
俺たちは、あの、
六本木ヒルズ、森タワーの前で、
タクシーを降りた。
夜に紛れるようにして、
翔ちゃんが俺を連れてってくれたのは......
52階の森アーツヒルズギャラリー。
そう。
今やっているのは、
『フェルメールとレンブラント展』
......俺が、来たかったヤツ...
でもさ、
こんな時間じゃ、入れない...
「お待ちしていました」
入り口で、スーツの人に、
恭しく迎えられて、俺は戸惑った。
「翔ちゃん...これ...」
「時間内だと、来れないだろ~?
だから、無理言って、
この時間に入れてもらうことにしたんだ。
ほんと、ありがとうございます」
翔ちゃんが深々と頭を下げたので、
俺も一緒に思いっきり下げた。
...まさかさ、
これ、観に来れるなんて...
俺は、オランダの画家が好きで、
今回、日本初公開の作品もあるって知って、
すご~く、観に来たかったんだ!
でも、流石に人が多くて、
無理だよね...って、
諦めてたのに...
「私は、出口の方にいますから、
どうぞ、ごゆっくり...
時間は、構いませんので...」
スーツの人は、優しくそう言って、
俺たち二人を、中に入れてくれた。
展望台には、夜景を楽しむ
カップルがたくさんいたが、
自分たちのことに夢中で、
嵐の年長二人がそこにいることに、
全く気付かない...
翔ちゃんは、それでも慎重に、
周りを見ながら、
俺の肘を掴んで、
展示スペースに滑り込んだ。