第4章 甘い約束
「こはるさん、ちょっといいかい。」
「あら、近藤さん。今日は屯所にいらっしゃったんですね。どうされました?」
昼食の後片付けが終わり、食堂で原田さんとお茶をすすっていると、近藤さんが入口のところでチョイチョイと手招きをした。
いつもは新八くんのお姉さんのストーカーをしているらしい近藤さんが珍しく屯所にいるので驚きながら声をかけた。
原田さんは、片付けとくから行ってきな、と言う。
私は立ち上がり、原田さんにすみません、と声をかけ近藤さんの元に行った。
「実はな、この真選組を含む治安組織を統括している人間に、こはるちゃんの身分証の用意を頼んでいたんだ。」
私はこの世界の生まれではないから、もちろん身分を証明するものがない。
身分証がなければお給料を振り込んでもらう口座も作れない。それを近藤さんにそれとなく相談していたのだが、まさか身分証を作ってくれるとは。
「それで、とっつぁんが、こはるさんに会ってみたいと言うもんでな。まぁ、顔は怖いが女性には優しいから安心してくれ。」
「は、はい…」
怖い人か…
ちょっと緊張してきた。
そうこうしているうちに近藤さんの部屋に着いてしまった。
「とっつぁん、こはるさんをお連れしたぞ。」
「失礼いたします。」
部屋には大きなサングラスにくわえタバコ、白髪混じりの厳ついおじ様がいた。
「はじめまして。こちらでお世話になっております、桜井こはると申します。」
私は正座して頭を下げた。
すると、とっつぁんと呼ばれたおじ様は、
「まぁまぁ、そんなかたくなるこたーねぇよ。おじさんはちょっくら美人の顔拝みに来ただけなんだってば。」
独特の口調でそう言って、煙をフーっと吐いた。