第2章 桜色の夜
男運が悪く、出会う男は浮気性だったり、DV男だったり、モラハラ男だったり。
ここに来る直前、同棲中の男の浮気現場(記念すべき10回目と言っていたけれど全然記念にならないだろ、それは。)に遭遇し、何もかも嫌になったと。
「でも、本当に嫌だったのは私自身かもしれません。」
俺はただ黙ってこはるの話に耳を傾けた。
「ろくに働きもしないくせに、私が養ってやったのに、恩を仇で返すなんて、と思ってしまった自分が嫌だったんです。ただ、愛して、愛されたかった。なのに、いつからか私は自分でも気付かないうちに見返りを求めていたんです。」
"愛して、愛されたかった。"
「それに、きっと私が彼をダメにしてしまった。……土方さん、私が友人になんて呼ばれてたかわかります?…………【ダメ男製造機】って言われてたんですよ。笑っちゃいますよね。自分で勝手に相手に尽くしておきながら、見返りを求める最低な女なんですよ、私は。」
そう言って自嘲気味に笑うこはる。
「だけど、この世界で、そんな自分を変えたいって思うんです。きっと簡単なことじゃないけど。でも……変わりたいって、思うんです。」
初めてこはるを見たとき、桜の花のような儚い女だと思っていたが、『変わりたい』と言葉にしたこはるは、折れない芯が通った強い女に見えた。
「私、今まではお酒弱い女を演じてました。その方が女らしくて可愛げがあるから。だけど、そういうのもやめたんです。可愛げなくったって、私は私。本当はお酒が大好きだし、オシャレで可愛い料理より、こってりしたラーメンとか、塩気のあるおつまみのほうが好きなんです。あと、甘いものも好きだけど、食べるより作る方が好きだし、あとは……」
指折り数えながら好きなものを語るこはるが面白くて、なんだか愛しくて、気付いたら俺はこはるの頭に手を伸ばしていた。