第2章 桜色の夜
「私、今まではお酒弱い女を演じてました。その方が女らしくて可愛げがあるから。だけど、そういうのもやめたんです。可愛げなくったって、私は私。本当はお酒が大好きだし、オシャレで可愛い料理より、こってりしたラーメンとか、塩気のあるおつまみのほうが好きなんです。あと、甘いものも好きだけど、食べるより作る方が好きだし、あとは……」
指折り数えながら考えていると、土方さんが「フッ」と笑った。
「はっ!すみません、こんな話面白くな……っ」
土方さんの大きな手が私の頭をクシャクシャと優しく撫でる。見上げると、とても優しい目をしていた。
最初は目付きが鋭くて、瞳孔も開いているし、今にも人を殺しそうという印象だったけれど、不意に見せたその優しい表情に胸がギュッとなる。これが所謂ギャップ萌えというやつか。
「変われるさ。お前なら。」
「……っ!」
そして、土方さんは私の欲しい言葉をくれる。
その優しさに涙がこぼれそうになるのをグッと堪えていると、
「……おまっ、すげぇ顔してんぞ今。」
土方さんはそんな私の顔を見てお腹を抱えてうずくまる。その肩は小刻みに震えていて、必死に笑いを堪えているのがわかった。
「もうっ!なんで笑うんですか!」
「ブッ!ははははは!わりぃわりぃ。」
「その顔は全然悪いと思ってないですね?」
「んなこたねーよ。ごめ、ぶっ!ははははは!」
「んもー!!」
私もだんだんおかしくなってきて、一緒に笑った。
2人の笑い声が夜に吸い込まれ、溶けていく。
時刻は午前2時を指していた─────