第2章 桜色の夜
「そうか。」
店先から店内に入り、目に付いた着物を近くで見る。
シンプルだが近くで見ると、桜の模様が華やかで、アイツにぴったりだなと思った。
そして、その隣の棚に飾ってあった簪を手に取る。
(アイツ、髪まとめるやつ持ってなさそうだったな。)
別に深い意味はない。必要だろうから買ってやるだけだ。
そう自分に言い聞かせて綺麗に並べられた簪を見る。
その中でぱっと目に付いたものを手に取って見た。
桜の花が描かれた桃色の蜻蛉玉に金細工が揺れる一本簪。
「そこのマネキンの着物一式と、この簪もくれ。」
そう店員に声をかけると、奥の方から真新しい同じ着物を出してくれた。
簪は化粧箱に入れてもらい、着物と一緒に風呂敷に包んでもらった。
「領収書は?」
「いや、要らねぇ。」
そう言って店員にお金を渡すと、「ではこちらも。」と椿油と練り香水をおまけで付けてくれた。
「きっと桜井様によくお似合いですね。」
「ああ。そうだな。」
出会ったばかりの女にこんな贈り物をするなんざ、我ながらどうかしてると思う。
だがそれ以上に、彼女の笑顔を見たいと思ってしまったのだ。