第2章 桜色の夜
万事屋を後にした俺たちは、手分けして情報を集めることにしたが、「桂らしき人物が万事屋に入っていくのを見かけた。」という通報以降、一切の情報を掴むことが出来ず、半ば諦めかけていた。
ブラブラと路地裏を徘徊していると、携帯の着信音が鳴った。
「はい、土方。」
電話を取ると、山崎だった。
「副長!こはるさんの買い物終わったので、これから屯所に戻ります。」
「ああ、わかった。俺もそろそろ戻る。」
電話を切ると思い浮かぶのは、先程万事屋で出会った【異世界から来た】という彼女のこと。
透き通るような白い肌に、柔らかそうな艶のある長い髪。まだあどけなさが残る顔立ちと矛盾するように、儚げな空気を身に纏う。春の終わりと共に散っていく桜の花を彷彿とさせるその姿が、かつての想い人であるミツバと重なり、どうしても放っておくことができなかった。
屯所に戻ろうと大通りに出たところで、山崎を使いにやった呉服屋が目に入った。
店先で着物を着せられたマネキンの微調整をしていた店員が俺に気付いて声をかける。
「土方様。本日はありがとうございました。」
きっとこはるのことを言っているのだろう。
「こちらこそ、世話になったな。」
ふと、店内のマネキンが着ていた、淡い卵色の裾の方に桜の模様が入った着物が目に付いた。
「そういやアイツ、着物何枚買ってった。」
そう店員に聞くと、
「どうせ仕事以外では着ないでしょうから、と1点のみです…」
そう、控えめな答えが返ってきた。