第1章 プロローグ
3人に別れを告げ万事屋を出ると、階段を降りたところにタクシーが1台、左後部座席のドアをあけて待っている。
「ささ!こはるさん、乗ってください。」
「ありがとうございます。」
乗り込むとき、頭をぶつけないように山崎さんがさりげなく乗り口の上に手を当ててくれた。
「とりあえず、まずは呉服屋に行きましょうか。」
***
しばらくすると、商店街の一角にある衣料品店に着いた。
タクシーを降りると、山崎さんは店先にいた店員らしき女性に話しかけた。
山崎さんから少し離れたところで様子を見ていると、その女性がこちらを見る。目が合うとにっこりと微笑んで「どうぞ。」と中へ案内してくれた。
「じゃあ、俺はここで待ってますから。」
山崎さんはそう言って、店先にあった長椅子に腰掛けた。
***
店内には既に仕立てた状態の着物や反物、帯や小物の他にも割烹着や下着も置いてあった。
店員さんは、その中から既に仕立ててある淡い桜色の着物を手に取り、私の体に当ててみる。
「うん、似合う。」
そして、その着物に似合うように生成の帯を選んでくれた。
他にもよくわからない紐や布を選んで店の奥へ案内されると、そこは襖で仕切られている6畳ほどの部屋になっていた。
「では、さっそく着てみましょうか。」
「は、はい…」
店員さんに言われるまま服を脱ぎ、着物用の肌着に袖を通す。どうやら山崎さんが「異国から来て着物は初めてだから着方を教えてあげて」と頼んでくれたらしい。