第1章 プロローグ
店員さんが丁寧に着付けを教えてくれたお陰で、なんとか自分で着物を着られるようになったけど、きっと一晩寝たらここまでちゃんとは着れないだろう。
他にも店員さんは、適当に見繕ってくれた着物や寝間着用の浴衣、仕事用の割烹着、下着や化粧品などを風呂敷に包んでくれた。
***
「すみません山崎さん。お待たせしました。」
長椅子に腰掛けていた山崎さんの背中に声をかけると、一瞬ビクッとした後、慌てて立ち上がり振り返った。
山崎さんは着物に着替えた私に、少し照れながら
「とても似合ってます。」
と言ってくれた。
「桜井様、また何かわからないことがあればいつでもいらしてくださいね。」
「はい!ありがとうございます。」
親切な店員さんに別れを告げ、タクシーへ乗る。
(そういえば、お金…!)
着物のお金を払おうと慌てて財布を取り出すと、山崎さんがそれをサッと右手でやんわりと制止した。
「経費で落ちるから、お金のことは気にしないで。」
そう言って笑ってくれた。